商売について 2017/5/21 Ⅱ

「駄文を連ねていい商売だな?」。そんな風に言われるようになれば一流だ。

 まずは商売をしなくてはいけない。いい商売を。おれは生まれが卑しい。先祖代々の財産なんてものはない。爵位もない。ゆえに、一級の市民となるためにはまず財産を形成しなくてはいけない。財産を形成するためには、宝くじが当たるのを待っていてはいけない。商売だ。商売をしなくてはいけないのだ。サラリーマンは商売ではない。商売人の手伝いに過ぎない。駄賃をもらって最低限の生活を維持するだけの、一時的な糊口しのぎに過ぎない。おれはおれの技術、技能、わずかながらの資本をもってして、富を膨らまし財産を作らなくてはいけない。そして手遅れにならないうちにリタイアし、もう一度二度大学に入門、学問教養を身につけ「本当の生活」に入らなくてはいけない。その時おれはやっと、ようやく、「市民」としての資格を得るのだ。

 こんな価値観は間違っているだろうか。サラリーマンとして当たり障りのない生、言い換えれば、誰か名も知らぬ資本家たちに飼われる畜生の生こそが、現代人として当然とるべき倫理的態度だろうか? おれは否、と叫びたい。

 この問題を真面目に議論する相手がいない。それがまずおれの孤独感を深める。誰かおれに明言してみてくれ。「サラリーマンの生活こそが人間の完成形であり、倫理的に道徳的に優れた素晴らしいものである」と。そうして哲学論文のひとつでも学会に提出してみればいい。おれは喜んで貴公を相手取って何時間でも話をしてみたい。おれをイラつかせるのはつまり、この問題について誰かと衝突することではなく、衝突さえできないほど曖昧な観念しか持たない人間ばかりしか周囲にいないってことなんだ。キミたちはなぜそう、そこはかとなく満足そうに毎日8時間や9時間の労働にいそしんでいるのだ? そういう連中をおれは「大衆」とひとくくりにして軽蔑しているのだ。そうしておれは無駄にイライラしながら、大衆のなかに埋没して生活していくのだ。現状はそんなものだ。

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 ソクラテスは大衆を相手取らなかった。哲学の素養のあるものだけを捕まえて対話を仕掛けた。その態度はおれから見て非常に精神衛生上よろしいやり方に思える。おれも真面目な話題はおれにとって信頼のおける人間としか扱わない。「大衆」には平気で嘘をつくし、なるべく「大衆」の言葉は無視することにしている。おれがメダカを扱うように、おれも「大衆」をただ愛でるべき畜生と本当に思えるようになった時、おれには全き平安が訪れることだろう。そして超人の孤独を味わうことになるのだろう。その孤独をこそおれは求める。実際はそう上手くいかない。おれは「大衆」の一挙手一投足に左右される。連中の言葉に戸惑わされたり、死にたい気分になったりする。それではいかんのだ。おれはまだ未熟なのだ。

 誤謬、臆見、非科学的な帰納法、そうしたものでぼんやりとした「正義」や「善」についての観念を形成し、畏れることを知らずただ威張っている「オトナ」たちにおれはいつも吐き気がしている。あまりに遅く来た「反抗期」だなと笑ってくれていい。いいさ、おれは反抗期だ。プロテストを態度に出し、口にも出すことだけがおれの生活を支える柱だ。これが崩れたとき、おれはサラリーマン・ゾンビになり果てる。そうなったら、そうなるくらいなら、おれは潔ぎのよい死を選択する。自殺を志向するのは病気か? おれには連中の態度こそ病気に近い何かに見えるがな。どんな過酷な「研修」を受けさせられても、どんな熾烈な「教育」に漬けられても、おれの自我は恥辱よりも死を選ぶ。

 死を想い死を覚悟したおれのことだ。なんだってやってみせる。爆弾を日々作り上げている。どでかいやつだ。完成のあかつきには、東京は一瞬で吹っ飛ぶだろう。跡形も残らない。大衆は根絶やしだ。おれの友人たちだけはシェルターのなかでシャンパンを干している。祝日だ。建国記念日だ。戦勝の記念碑が立つぜ。

 そうだ、おれは戦うことに決めたんだ。死を覚悟したんだ。それも一度や二度じゃない。何度も逡巡したあげく、英雄の死を選択し、奴隷の生を放棄し、そうして毎夜一発の銃弾のこもったピストルを懐に忍ばせ、街を練り歩いている。これはもう単なる労働ではない。契約ではない。戦闘なんだ。戦争なんだ。連中とおれの、生きるか死ぬかの闘争なのだ。おれはおれの大将で、おれの最高司令官だ。おれはおれの兵隊で、おれの特攻隊長なんだ。鉄砲弾だぜ、腕が鳴る。殺すぞ、見事に殺すぞ。連中はおれを殺した。一度や二度じゃない。おれも連中を殺して見せる。一人や二人じゃ済まないだろう。現代戦はなにせスケールが違う。ICBMのお出ましだ。弾頭には核だ、化学兵器だ、細菌だ、大変だぞ。

 おれの日誌は時におれの軍歌だ。時におれの戦意を昂揚させ、銃身をますます輝かす。スカイツリーが今日もビカビカやってやがる。ぽきりとへし折ってみたいもんだ。おれの膂力がそれを可能にするだろう。ポルトスよ、マルスの生まれ変わりよ、おれに力を貸してくれ。いきり立ってきた。おれの怒りはそう簡単に収まるものではない。怒りだ、ルサンチマンだ、放っておけ、おれのことは放っておけ、キミたちは労働にいそしんでいればいいだろう。おれは新小岩の片隅でコツコツ爆弾を練り上げている。その事実だけで十分じゃないか。警戒するべきは北朝鮮の金の一族か? 違う、おれじゃないか? いいさ、知らないふりをしておけ。放っておけ。おれもその方が作業が捗る。

 英霊たちがおれの側についている。おれに剣と血の活劇を求めている。おれには聞こえる、その声が。アキレウスの亡霊が、おれに「戦え、最後まで戦え戦い抜け」と囁いている。確かに聞こえるんだ。剣はもう買い求めた。あと足りないのは血だ。もうじきだ。じきにパズルのピースは整うだろう。その時連中は目を見張る。もう遅い。……ドカン、だ。

 友人たちよ、諸君の助力に感謝する。女神たちよ、あなた方の助力に感謝を申し上げます。英霊たち、共に戦場へ赴こう。美々しい武具は揃っている。パトロクロスよ君、死に給うな。おれが生き返らせてやる。おれの力で全ての過去の英霊がよみがえる。おれの背後には百万の軍勢が続く。行軍だ、そら、一、二、一、二……散兵線! 散れ! 突撃だ! 撃て撃て撃て! やってしまえ! 連中の満足を根こそぎ奪い取れ! その不気味な幸福を、汚泥の中にぶちまけてやろう! おれは今世紀最大の簒奪者だ、おれが支配する、全てを支配する! 勝つ! 最後に笑うのはおれだ、おれたちだ、おれたち英霊の種族だ、おれたち女神の助力を得た男たち、半神の英雄の時代が、もうすぐそこまでやってきている! 黙りこくっていた伏兵たちが、次から次へとおれの軍勢へ参加する。おれは大軍を率いる、そうしてすべてを蹂躙する、略奪は禁止しない、ドラッグもフリーだ、ここは楽園だ、剣と闘争の楽園だ。やるぞ、やるだけだ、やってみせるだけだ。

 葬式が大変だ。連中の葬式をあげてやらなくてはならん。そこまで面倒みなくては義理を欠くってもんだ。キャンプファイヤーだ。連中の屍を薪みたいに積み上げて火をつける。ボウボウ燃えて愉快な眺めだろう。英霊たち、輪になって踊ろうや。踊ろうや。永遠に、踊ろうや。