読書について 2017/6/23

 昨晩から『ブラジュロンヌ子爵』を再読している。それだけで随分と気持ちが救われる。満員電車の苦痛もあっという間に終わる。流浪の王チャールズ2世に自分を重ねなどして、悦に浸る。おれにラ・フェール伯爵は、最強の保護者は現れるだろうか。おれに忠実な従僕パリーは現れるだろうか。おれはまだルイのように若い。社会という名のマザランにしてやられているが、やがてはおれも「太陽王」になれるだろう。ムーサイオスの優しい霊験が、おれに瑞々しい力を充填してくれる。古典を読む、これすなわち現代へのプロテストだ。とても優しい、そして強力なプロテストだ。ダルタニャンは暇乞いして自由になった。モンクを捕まえに行くのだ。元銃士隊副隊長殿に敬礼! やがては元帥杖を手にするフランスきっての武士だ。デルブレー騎士殿やデュ・ヴァロン・ド・ブラシュー・ド・ピエールフォン殿に会うのも楽しみだ。古典は素晴らしい。現代に生きながら、王政の時代を旅出来る。デュマはおれのために非常に良いものを遺してくれた。おれのためだけじゃない。全人類のために、だ。およそ文字が読めて、原文なり翻訳なりにアクセスできる人種は幸いである。その幸福を正しく享受しよう。おれたちは共に活字の旅をしよう。そうだ、おれはインスタントコーヒーとたばこと、古典さえあれば幸福になれるように出来ている。
 読書をすれば苦役も辛くない、というライフハックを発見する。初日はそれで非常にいいのだが、2日目、3日目となるといったいどうしたことかそのライフハックの効力が薄れてくることがままある。「あ、これは!」と思った発明は、時間の経過とともにその魅力を失っていく。永劫の救いはなかなか見つからない。
 それでもきょうはわりかし調子のいい日だ。おれの胸はやんわりとした希望に満ちている。苦役は苦痛だが、死ぬほどの激痛ではない。緩やかな鈍痛だ。金曜日は気分が軽い。土日は苦役がない。おれの反撃フェイズだ。きょうは睡眠をよくとることだ。明日に備えよう。馬のように食って、寝るのだ。死の優しい妹である眠りが、おれの瞼に降りかかりますように。
 苦役が終わった。なんだかジフェンヒドラミンを大量服用したかのような不快感が、首筋にじっと残っている。落ち着かない。食って、寝るに限る。